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【ぼくは麻理のなか】最終巻を読んだ感想※後半ネタバレあり

移転しました。

「ぼく麻理のなか」という漫画は、個人的に「神」と崇めている押見修造氏の作品で、
漫画アクション』にて2012年から2016年まで連載された。単行本は全9巻。

 

最終巻を読んでから1年くらい経つけど、それから何度も読み返してしまう
魅力がある。押見氏の作品の中でもかなり好きな部類に入る。

 

早速レビューしていくけど、本記事の最後にはストーリーの重大なネタバレがある
ただ、ネタバレする前に「ココからネタバレが始まるから、気になる人には読まないでー」みたいな感じで警告するので、あらすじだけ知りたい人も安心して読んでほしい。

 

物語の主人公は、田舎から上京してきた大学生、小森功
彼は大学で友達が一人もできず、なんとなく周囲と馴染めずにいた。
それでも最初の一年は真面目に通ったが、2年生になってからは完全に大学に行かなくなってしまった。
それから、1日中家に引きこもってゲームと自慰行為を繰り返すという堕落した毎日を送るようになる。

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そんな彼の唯一の楽しみが、近所のコンビニに毎晩決まった時間に現れる、かわいい女子高生を眺めること。ただ、話しかけたりはせずに、彼女がコンビニに来る時間を狙って自分もコンビニに行き、少し離れたところから横目でチラチラ見るだけである。
うん、まあ普通に気持ち悪い。

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コンビニの帰り道で、功はこの話したこともない、名前すら知らない女子高生の後をずっとついて行った。彼女の後姿を見つめながら、このまま大学生活も、辛い現実も忘れてただずっと彼女の後をついて行きたいと思った。

 

すると、彼女は立ち止まり微笑を浮かべながら後ろを振り返った。

 

次の瞬間、気が付いたら次の日の朝になっており、目が覚めると功はその女子高生になっていた。

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こういう状況だと、絶対最初はおっぱい触りたくなるよね。

 

人格は「功」のままだったが、身体は完全に女子高生のものになっていたのである。
彼女の生徒手帳を確認すると、名前は「吉崎麻理」と書いてあった。
功はこれから吉崎麻理として生活していくことになる。


ここまで読むと、功と麻理の身体が入れ替わったと思うだろう。
しかし、この漫画の面白いところはそんな読者の予想を裏切るところから始まる
功自身も麻理と身体が入れ替わったと思い、自分の身体に会いに行く。きっと、麻理さんの心はぼくの身体に入ったのだろう、と。


行きつけのコンビニで立ち読みをしている「ぼく」を見つけ、思い切って
「麻理さんですよね?」と話しかけるが、相手は全く何も知らない様子だった。結論を言うと、麻理ではなく小森功のままだったのである。

 

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これでは小森功が2人いるということになる。
麻理は一体どこに行ったんだ、という話になる。

 

功は本物の麻理を探さなくてはならないが、吉沢麻理としての日常生活を送らなければならない。なんとか麻理の振りをして高校生活を送るうちに、少しずつ麻理のことを知ることになる。
麻理はクラスのアイドル的存在であり、彼氏はおらず、成績は優秀で、放課後は仲の良い女子グループで買い物をしたり遊びに行ったりして過ごしていた。

 

功は必死に麻理のフリをして周囲に合わせるが、すぐに麻理が麻理でないことを見破った者がいた。同じクラスメイトで、麻理に強い想いを寄せる柿口依(かきぐちより)という女の子だ(ややレズっ気あり)。
依は麻理と話したことがなく、功と同じように遠くから麻理を眺めるだけの存在だった。麻理のことならなんでも知っていたため、すぐに麻理でないことを確信したのである。ちょっと怖い

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次第に功と依は協力して、本当の麻理を探すようになる。そして一緒に探し続けるうちに二人の仲は意外な方向に発展していく。そして、小森功の姿をした、もう一人の小森功も大きく物語に絡んでくる。

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3人で本物の麻理を見つけ出すというストーリーだが、麻理の正体は・・・。

 


以上があらすじ。
謎が謎を呼び、続きが気になってどんどん読み進めることができる。「まさか、まさか・・・!!」の連続で全く読者を飽きさせない。

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連載当時は、半年に1巻というペースだったので続きが待ち遠しくて仕方がなかった。
しかし、今や完結済みだから、最後まで一気に読むことができる。これから初めて読む人がうらやましいぜ。

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ここから、最終巻まで読んだ感想を書く。物語の結末にも触れているので、知りたくない方はご注意ください。

 

 

 

 

 

よろしい?

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にいいんだな?

 

 

 

 

 

 

 


この漫画を読んで率直に思ったことは、「押見修造さんらしい作品だな」ということだ。もちろんいい意味で。
押見さんの漫画は、どれも人間の深層心理、トラウマ、エロスをテーマに扱っている。
もちろんそれぞれの作品で全く違ったアプローチをしているため、どの作品を読んでも新鮮な面白さがある。

 

結局、麻理の中にいる小森功は、
麻理が辛い現実を忘れるために作り出したもう一つに人格だった。

 

麻理の本当の名は祖母がつけた「ふみこ」だが、母親がもっとかわいい名前がいいという理由で、無理やり「麻理」に変えてしまう。
名前だけでなく、着る服も母親がかわいいと思うものを無理に着せられ、「かわいい女の子」であることを強制されてしまう。

 

麻理は母親の要求通り、幼少からかわいい自分を演じ続ける。母親も学校の友達も、みんな自分のことをかわいい、かわいいと繰り返すようになる。
しかし、その「かわいい麻理」は求められるがままに表面的に取り繕ったもので、誰も本来の「ふみこ」としての自分を見ようとしない。誰も本当の自分を見ない。

 

苦悩していた彼女の唯一の救いは、彼女の自宅の正面のアパートに住む一人暮らしの大学生だった。彼は好きなだけゲームをして、自分の好きなタイミングで自慰行為を始め、誰からも余計な干渉を受けずに自由気ままな生活を送っていた。
少なくとも彼女の目にはそう映った。

彼なら取り繕うことも、かわいく振舞うことも、無理して周囲に合わせる必要もない。
本来の自分のままでいられる彼に強い憧れを持ち、彼のことを観察するようになる。
やがて彼の留守を狙って自宅に侵入し、彼の名前を知ることもできた。

 

彼の名前は小森功

 

麻理は、「かわいい麻理」を演じ続けるのに疲れ、いっそのこと他の誰かになりたかった。辛い現実を忘れ、全く違う別人に生まれ変わりたかった。その別人こそ、小森功である。
こうして、自分の心の中にもう一人の「小森功」という別人格を作り上げたのである。
「ぼくは麻理のなか」という漫画のタイトルの真の意味が、ここで初めて読者にも理解できるようになっている。そして、最後は自分で作り上げた「小森功」とお別れして、吉崎麻理として生きていく決意をする。

 

人間は日常生活で強いストレスを受け続けると、そこから逃避する手段として別人格を作り上げることは現実でもある。
特に、人格が形成されていない時期に強いショックを受けたり、歪んだ愛情で育てられると別の人格を作り上げてしまう可能性がある。
いわゆる「多重人格」であり、これを題材にした映画や小説はけっこうある。

 

仙水忍なんて7つも人格をもっている。

 

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僕はこういう心の問題を扱った作品が大好きなんですよ。
「ぼくは麻理のなか」という漫画も、ミステリーから入ることで多くの読者を惹きつけ、物語上手く深層心理のテーマにつなげている。

 
ちなみに今ハマっている押見さんの新作、「血の轍」もかなり面白い。

inugami09.hatenablog.com


押見修造万歳。